【センス博士の今週のトピック】Vol. 8 – 第1章

宇宙に浮かぶ巨大な猫の足跡。「猫の足星雲」が語る、星が生まれる奇跡
夜空を見上げると、無数の星たちが私たちに静かに語りかけてきます。 その一つ一つが、悠久の時間をかけて、輝きを放つ、壮大な物語の主人公です。
そして、宇宙にはまるで画家が筆を走らせたような、息をのむほど美しい星雲と呼ばれるガスや、塵の、巨大な雲が存在します。 今回、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、その驚くべき姿を捉え、私たちの目を釘付けにしたのが、「猫の足星雲(Cat’s Paw Nebula)」です。
なぜ「猫の足」と呼ばれるのか?
その名の通り、猫がそっと地面を踏みしめたような、特徴的な丸みを帯びた複数の領域が、連なっているように見えることから「猫の足星雲」と名付けられました。 正式名称は、「NGC 6334」。天の川銀河のさそり座の方向に、約5,500光年という、途方もない距離に位置しています。
この、愛らしい名前とは裏腹に、その内部では想像を絶するダイナミックな活動が繰り広げられています。 「猫の足」に見える、それぞれの領域はまさに、新しい星が、誕生する「ゆりかご」なのです。
ジェームズ・ウェッブが捉えた驚きの詳細
従来の望遠鏡では、厚い塵のベールに覆われその詳細を捉えることが難しかった「猫の足星雲」。 しかし、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、得意とする赤外線の目でこの宇宙の神秘を、見事に捉えました。
その画像には、これまで見ることのできなかった、無数の生まれたばかりの若い星たちが、まるで宝石のように輝いています。 また、星々が周囲のガスや塵を、激しく吹き飛ばしながら成長していく様子や、複雑なフィラメント状の構造が、克明に描き出されています。
この、驚くべき画像を公開している、NASAの公式サイトでは、高解像度の写真とともに科学者たちの解説を読むことができます。
宇宙の絵画が語る、星の誕生
「猫の足星雲」の鮮やかな色彩は、そこに存在する様々な元素が放つ光によるものです。 水素ガスは赤く、硫黄は青く、そして、酸素は緑色に輝き、宇宙の 絵画を織りなしています。
私たちが、夜空に見るきらめく星たちも、かつてはこのような星雲の中で生まれたのです。 「猫の足星雲」は、遠い宇宙の美しい風景であると同時に私たち自身の、起源を教えてくれる貴重な 宇宙の実験室なのです。
