【センス博士の今週のトピック】Vol. 9 – 第2章
138億光年の「過去」を見るタイムマシン。「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の、驚異的な技術力
前回の記事で、私たちは「猫の足星雲」という星が生まれる、奇跡の瞬間の美しさに、触れました。 では、なぜ私たちは、5,500光年も彼方にある、その詳細な姿を、見ることができたのでしょうか。
その答えが、今回の主役。 2021年に、打ち上げられた史上最強の、宇宙望遠鏡、**「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」**です。

なぜ、「赤外線」で見るのか?
私たちが普段、目で見ている、光(可視光)は、宇宙空間に漂うガスや、塵(ちり)に遮られて、遠くまで届きません。 ですが、それよりも波長の長い「赤外線」は、そのガスや、塵をすり抜けて、私たちの元まで届いてくれます。
JWSTは、この目に見えない「赤外線」を、捉える巨大な「目」を持っているのです。 それによって、ハッブル宇宙望遠鏡ですら見ることのできなかった、厚いガスのベールの向こう側にある、生まれたばかりの星の姿を、はっきりと見ることができるのです。
巨大な「金の鏡」と、究極の「日傘」
JWSTの最も、特徴的な部分は、金色に輝く巨大な鏡です。 これは、18枚の六角形の鏡を、組み合わせたもので、その直径は、6.5メートルにもなります。素材には、赤外線の反射率が非常に高い、「金」が、薄くコーティングされています。 この、巨大な鏡で遥か彼方からの、かすかな赤外線を集めているのです。
そして、その下にはテニスコートほどの、大きさの銀色の「日傘」(サンシールド)が、5層にも重なって広がっています。 これは、望遠鏡自体が、太陽や、地球、月から、発する熱(赤外線)の影響を受けないように、するためのものです。 この、究極の日傘のおかげで、望遠鏡は、マイナス233度という極低温に保たれ、宇宙のかすかな光を、ノイズなく捉えることができるのです。
138億年前の「最初の星」を探す旅
光は、届くまでに時間が、かかります。 5,500光年、彼方の「猫の足星雲」を見ている私たちは、実は、5,500年前の「過去」の光を見ているのです。
JWSTの究極の目標は、さらに遠く、138億年前に、この宇宙が誕生した直後に、生まれた「最初の、一番星(ファーストスター)」の、光を捉えることです。 それは、まさに人類が、自らのルーツを探す、壮大なタイムトラベルなのです。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は単なる観測装置では、ありません。 それは、私たちが何者で、どこから来たのか?という、根源的な問いに、答えるための希望を、乗せた、「時空を超える、船」なのかもしれませんね。