【センス博士の今週のトピック】Vol. 4
家にいながら、ルーブル美術館へ? デジタルで変わる、アート鑑賞の未来
美術鑑賞、と聞くと私たちは静かな美術館に足を運び、ガラスの向こう側にある、本物の歴史的な絵画の前に、静かに佇む、という光景を思い浮かべます。 もちろん、その特別な空間で、本物のオーラを肌で感じる体験は何にも代えがたい素晴らしいものです。
ですが、もし、「作品を、より深く理解する」という点においては、家にいながらにして、美術館で見る以上の、感動体験ができるとしたら、どうでしょう? 今、最新のデジタル技術が、そんな夢のようなアート鑑賞の未来を、現実のものにし始めています。

モナ・リザの「ひび割れ」まで見える、超高精細デジタルアーカイブ
その代表格が、パリのルーブル美術館や、オランダのアムステルダム国立美術館などが、国家的なプロジェクトとして、進めている、**「デジタルアーカイブ」**です。
これは、所蔵する歴史的な名画を、何十億ピクセルという驚異的な解像度でデジタル撮影し、誰もがインターネット上で、無料で見られるようにする、という試みです。
例えば、Googleの、**「Arts & Culture」**というプロジェクト。 このサイトでは、世界中の2000以上の美術館と提携し、そのコレクションを、オンラインで、公開しています。 私たちは、家にいながらにしてマウスのホイールを回すだけで、モナ・リザの、有名な謎の微笑みを彼女の瞳の奥の奥まで拡大し、画家が描いた、微細な絵の具のひび割れ(クラクリュール)の一本一本まで、はっきりと、見ることができるのです。
これは、美術館で、分厚い防弾ガラス越しに、遠くから眺めるだけでは、決して得られない新しい感動体験です。

失われた「色」を取り戻す、デジタル復元
さらに、テクノロジーは失われた過去の姿を、私たちの目の前に蘇らせてくれます。
例えば、日本の浮世絵。 当時の鮮やかな色彩は、長い年月の間に光によって、色褪せてしまっています。 しかし、最新のデジタル技術と色彩科学を、駆使することで、**「もし、200年前に、完成したその瞬間にこの絵を見ていたとしたら、どんな色だったのか」**を、科学的に、復元することができるのです。
それは、私たちが今まで知っていた、セピア色の「歴史」が、突如目の前で極彩色の、鮮やかな「現実」として、立ち現れるような、魔法の体験です。
テクノロジーは、私たちとアートとの距離を、劇的に縮めてくれました。 そして、それは、「本物」の価値を下げるものでは決してありません。 むしろ、デジタルでその凄さを、知れば、知るほど、私たちはいつか、この「本物」に、会いに行きたいと強く、願うようになるのです。