センス博士の今週のトピック】Vol. 6
ピラミッドの壁画は「グルメ雑誌」だった?古代エジプト人の意外な食生活
古代エジプトの壮大なピラミッドや、王墓。その壁を埋め尽くすように、描かれたヒエログリフと壁画。 私たちは、そこに王や、神々の荘厳な物語ばかりが、記されていると思いがちです。
ですが、もしその壁画が、死後の世界のための宗教的な記録であると同時に、当時の人々のリアルな「暮らし」と「食」を伝える、一級の歴史資料だとしたら…?
今回は壁画に隠された、古代エジプト人の驚くほど豊かで意外な「食生活」の謎に迫ります。

主食は「パン」と「ビール」
ピラミッド建設のような、巨大な国家プロジェクトを支えた何万人もの、労働者たち。彼らの力の源は、何だったのでしょうか。 壁画や発掘された記録から、その答えが、わかっています。それは**「パン」と「ビール」**です。
驚くべきことに、労働者には給料として毎日、一定量の、パンとビールが支給されていました。ビールは、水分と栄養を、同時に補給できる、当時のいわば「スポーツドリンク」のような存在だったのです。 壁画には、女性たちが大きな壺でビールを醸造している様子や、様々な形のパンを、焼いている様子が、生き生きと描かれています。
王家の食卓と、庶民の知恵
もちろん、王(ファラオ)の食卓は、さらに豪華でした。 ナイル川で獲れた新鮮な魚、ローストされた鴨や牛の肉、そして、デーツ(ナツメヤシ)や、イチジク、ブドウといった、豊富な果物。 壁画には、それらの豪華な食材が、山のように積まれた、宴の様子も、描かれています。
一方で、庶民もナイルの豊かな恵みを受け、豆類や野菜などを栽培し、決して貧しいだけの、食生活では、なかったことが、最新の研究で、わかってきています。
これらの、壁画の詳細な記録を解読し、デジタルでアーカイブしているのが、**オックスフォード大学の「Ancient Egypt: The basics」**のような、研究プロジェクトです。彼らは壁画を単なる「絵」としてではなく、古代のデータベースとして、解析しているのです。
壁画は、未来への「レシピ」
壁画に描かれた何気ないパンを焼く、女性の姿。 それは、数千年の時を超えて私たちに、古代の人々の、息遣いを伝えてくれます。 それは、死後の世界へ、自らの文化を伝えようとした、古代エジプト人の切実な、「未来への、メッセージ」であり、「永遠の、レシピ」なのかもしれません。