【センス博士の今週のトピック】Vol. 20- 第3章

アフガニスタンの険しい山脈に、1500年もの間、静かに佇んでいた二体の巨大な仏像。 バーミヤン渓谷の岩壁を直接、彫って作られた、高さ55メートルと、38メートルの大仏は仏教文化と、ヘレニズム文化が融合した、人類の至宝でした。
しかし、2001年3月。 当時、アフガニスタンを支配していた、イスラム主義勢力「タリバン」は、「偶像崇拝を、禁じる」という、自らの厳格な教義に基づき、この世界遺産をダイナマイトで、爆破。 世界中からの、制止の声を無視し、人類の宝は、一瞬にして、瓦礫の山となってしまいました。 その衝撃的な映像は、今も私たちの記憶に、深く刻まれています。
暴力は、「記憶」を、消すことは、できない
一つの文化が別の文化を暴力で否定する。 人類の歴史の中で、繰り返されてきた、この悲しい行為。 ですが、この物語は、絶望だけでは、終わりませんでした。
世界中の、考古学者、技術者、そして、アーティストたちが、立ち上がったのです。 **「暴力によって、失われた、記憶を、テクノロジーとアートの力で、取り戻そう」と。
その、中心となったのが日本のチームでした。 東京大学や、パスコといった、日本の研究チームは、90年代からバーミヤン遺跡の、精密な三次元測量データを、記録していました。 その、破壊される「前」の、貴重なデジタルデータを元に、世界中の研究者が、協力。 大仏の元の姿を、コンピュータグラフィックスで完璧に、復元したのです。
光の、ホログラムとして、蘇る、大仏
そして、2015年。 破壊された大仏があったその空っぽの岩壁に。 中国人アーティスト夫妻が、この三次元データを、使い、巨大な、光のホログラムとして、大仏を一夜限りで、復活させるという、プロジェクトを実行しました。 漆黒の闇の中に、浮かび上がる、光り輝く大仏の姿。 それを見た地元の人々は歓声を上げ、そして、涙を流したと言います。
**UNESCOの公式サイト**では、今もこのバーミヤン遺跡を、人類の「負の遺産」として、そして「再生への希望」の、象徴として、記録し続けています。
破壊されたものが、元に戻ることはありません。 ですが、そこに何があったのかという「記憶」は、決して消すことはできません。 そして、その「記憶」を、未来へと語り継いでいくこと。 それこそが、私たち、人間に、与えられたアートとテクノロジーの最も尊い、役割なのかもしれませんね。